2022-12-02 Update
ミトコンドリア標的創薬の注目企業5社
ミトコンドリアは、細胞の代謝活動に使用されるATPの90%以上を産生する「エネルギー工場」であるが、近年の研究により、ミトコンドリアによるアポトーシス誘導、ROS産生と炎症誘導、カルシウム恒常性、ストレス応答 (マイトファジー)など、エネルギー産生以外にも様々な生体機能に関わることが明らかになってきている。 そのため、ミトコンドリア機能の障害は、脳筋症などのミトコンドリア病のみにとどまらず、がん、神経変性疾患、糖尿病、腎疾患、眼科疾患など幅広い疾患と関連することが分かっている [1]。 一方で、ミトコンドリア標的創薬の難易度は高く、ミトコンドリア特異的な薬剤送達の難しさ、ミトコンドリア分裂/融合など未解決のバイオロジーの多さ(臨床POCが確認出来た標的分子の少なさ)などが課題として挙がる。 ミトコンドリア創薬に注力するアステラス製薬は、以下の5つの作用機序/創薬アプローチに注力することを掲げている。 1) ミトコンドリアの生合成経路 2) ストレス応答/ROS産生経路 3) ATP産生代謝経路 4) ミトコンドリア分裂/融合やマイトファジーなどのミトコンドリアダイナミクス 5) ミトコンドリア補充療法 企業買収や提携を積極的に進めており、直近では2022年6月にGenerian Pharmaceuticals社との提携を発表している。Generian Pharmaceuticals社は、AMPKの機能を安定化するMolecular Glueの品目を保有している。 加えて、近年の研究にて、ミトコンドリアがATP放出イオンチャネルを介して味覚シグナルの伝達に関与していることや[2]、眼の光受容細胞においてミトコンドリアが密に局在することで、光を一点に集める物理的なレンズとして機能していることなど[3]、ミトコンドリアの新たな生体機能が報告されている。今後もミトコンドリアのバイオロジーについては、新たな発見が続くものと思われる。 また、金属錯体分子やミトコンドリア浸透ペプチド、ナノ粒子による核酸送達など、ミトコンドリアターゲティング技術についても技術開発が進んでおり、ミトコンドリア標的創薬の実現に向けた着実な研究の進展が感じられる[4]。 参考文献[1] : https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32397376/ 参考文献[2] : https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32936320/ 参考文献[3] : https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35235359/ 参考文献[4] : https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34012953/
オルガネラごとに特異的な分子シャペロンの研究を行う企業。ミトコンドリア、細胞質、小胞体など各領域での細胞ストレス応答を詳細に分析し、特定のオルガネラのみで作用するシャペロンのモジュレーター化合物を探索する。共同創業者でMount SinaiのYiannis Ioannou教授の研究成果が活用されており、ミトコンドリアシャペロン分子のTRAP1アゴニスト分子を特定している。この分子の作用により、ミトコンドリア-リソソーム間のクロストークが改善され、ミトコンドリア機能回復が起こることを確認している。Merck, Sanofiと提携し、Merckは神経変性疾患、腎疾患を対象に化合物の導入オプション権を保有している。Websiteにアクセスできず、活動を停止していると思われる。
メモ
ミトコンドリアシャペロン分子としてTRAP1アゴニスト分子を特定。ミトコンドリア-リソソーム間のクロストークが改善され、ミトコンドリア機能回復が起こることを確認している。
京都府立医科学大学の五條教授のグループの研究成果に基づき設立された企業。mtDNAをEx vivoで置換する基盤技術を持つ。異常なmtDNAを持つ細胞のmtDNAをミトコンドリアTransfer signal付きエンドヌクレアーゼで分解し、その細胞と、単離した正常mtDNAを持つミトコンドリアと共培養することで、細胞のミトコンドリア補充ニーズによって正常ミトコンドリアが細胞内に取り込まれる。免疫細胞のミトコンドリアを健常者のミトコンドリアにEx vivo置換する自家免疫細胞療法の研究に取り組んでいる。
メモ
mtDNAをEx vivoで置換する技術。ミトコンドリア移行配列を含むエンドヌクレアーゼでmtDNAを分解し、その後単離した正常mtDNAを持つミトコンドリアと共培養することで、細胞のエネルギーニーズによって正常ミトコンドリアが細胞内に取り込まれる。
ミトコンドリア病研究NPO団体の7 SEAS PROJECT発の創薬ベンチャー。北海道大学の山田勇磨准教授の研究技術が活用されており、細胞膜を通過し、ミトコンドリア膜と融合するミトコンドリア内に薬剤を送達するナノ粒子技術(MITO-Porter)を開発。これまでにCoQ10分子の送達やアンチセンス核酸の送達実績を報告。Ex vivoでミトコンドリアのエンジニアリングを行い、補充する外部補充療法の研究を進める。自社でCMC研究所を立ち上げ、協和キリンがミトコンドリア病治療薬の研究で提携している。
メモ
細胞膜を通過し、ミトコンドリア膜と融合するミトコンドリア内に薬剤を送達するナノ粒子技術(MITO-Porter)を開発。これまでにCoQ10分子の送達やアンチセンス核酸の送達事例を報告している。
肥満, 心不全, NASHを対象にミトコンドリア代謝を促進する化合物を開発する企業。Gencia社のIPを引き継いでおり、リード品のHU6は、ミトコンドリア膜間腔からのプロトンリークを引き起こすことで、TCR回路や脂肪酸β酸化によるプロトン勾配形成の必要性を高め、結果として基質となる糖・脂質の代謝を活性化する。ATP産生に影響を与えず、毒性の問題をクリアした新規の脱共益剤である。肥満、駆出率が保持された心不全(HFpEF)、NASH、2型糖尿病を対象に開発されており、肥満を対象としたPhase 2aのデータで、高BMI値の被験者の有意な脂肪減少と体重減少を確認している。
メモ
ATP産生に影響を与えず、毒性の問題をクリアした新規の脱共益剤を開発。肥満を対象としたPhase 2aの臨床試験で、高BMI値の被験者の有意な脂肪減少と体重減少を確認している。
ミトコンドリア機能障害に対する治療薬を開発する企業。mtDNAの変異のゲノム編集による切断、mtDNAの発現の調節を行う化合物、ミトコンドリアマトリックスプロテアーゼへの作用によるミトコンドリアタンパク質の品質管理の改善などのコンセプトで創薬を行っている。mtDNAの発現の調節を行う化合物として、ミトコンドリアRNA polymeraseのPOLRMT阻害剤の論文を報告し、特許を申請している。また、mtDNAのゲノム編集は、AAVベクターで送達されるZFNやTALEベースのCytosine base editor(CBE)を用いており、mutant mtDNAの変異配列を認識し切断して相対的にwt mtDNAの割合を増やすヘテロプラスミー調節のアプローチや、直接的な変異配列の書き換えを行うアプローチを取っている。
メモ
Cambridge大のMichal Minczukグループリーダーや、 Gothenburg大のClaes Gustafsson教授、 Karolinska研究所のNils-Göran Larsson教授といったミトコンドリア研究のKOLが共同創業者として参画。最先端のミトコンドリアバイオロジーの知見とミトコンドリアエンジニアリング技術を活用し、創薬を進める。
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